3C分析とは
3C分析は、事業戦略やマーケティング戦略を策定する際に、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの視点から事業環境分析を行うフレームワークである。1980年代に、当時マッキンゼーだった大前研一氏によって提唱された考え方で、自社が競争優位性を構築し、競合他社に勝つための成功要因(KFS:Key factors for success)を洗い出す分析手法である。
3C分析は、顧客分析、競合分析、自社分析の順番で行う。最終的には市場競争において自社の勝つための秘訣を洗い出すことを目的としている。戦略策定における普遍的なフレームワークであり、中堅・中小企業の経営者や部門責任者は、是非有効活用して欲しい。
顧客分析
顧客分析では、市場全体像の把握から行い、具体的な顧客ニーズや購買プロセスの実態把握を行う手順となる。市場分析の結果は、KFSの導出だけでなく、ビジネスモデル構築やマーケティング戦略策定に活用できる。顧客分析の結果は、営業・マーケティング施策を含めた顧客接点活動の改善に活用することができる。
顧客分析で把握したい項目は大きく6つある。顧客分析では、市場及び顧客ニーズの状況と変化を把握する。
- 市場規模と成長性
- 市場の変化
- 市場構造
- 顧客ニーズ(顕在、潜在)
- 顧客の購買行動
- 購買プロセスと購買決定要因(KBF)
市場全体像を把握する際は、PEST分析やメガトレンド分析などのマクロ分析から行うこともある。中長期戦略立案の一環で3C分析を行う際は、合わせて行って欲しい。
PEST分析
- 政治(Politics):政府の政策・法律・税制・規制の動向と事業への影響
- 経済(Economy):景気動向、経済動向、為替・株価動向と事業への影響
- 社会(Society):人口動態・流行・価値観・ライフスタイルの動向と事業への影響
- 技術(Technology):技術革新・スタートアップ・新しい技術の動向と事業への影響
メガトレンド分析
メガトレンドとは、世界規模で社会や経済へ影響を及ぼす大きな潮流のことである。シンクタンクやコンサルティング会社、投資会社や政府機関などが長期視点に立った分析結果を発表している。こうした世界的な潮流や変局点を俯瞰的な視野で把握することが非常に重要である。具体的なメガトレンドは以下のようなものがある。
メガトレンドの一例
- サステナビリティ:脱炭素化の環境問題への対応、環境・社会・経済の3側面からの持続可能性
- エネルギー:環境に優しいクリーンエネルギーへの転換
- 食料・栄養・農業:食料需要や栄養需要の増加、農業の維持拡大の必要性
- 人口増加・都市化:人口増加の継続、新興国を中心とした急速な都市化の進行
- ヘルスケア:高齢化の進行による製薬・ヘルスケア需要の増加
(出所:DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューより)
顧客分析の一つの項目である市場構造を把握することは、非常に重要である。その際は、5フォース分析は有効なフレームワークになる。3C分析との関係も理解しながら、利用して欲しい。
5フォース分析は事業の競争環境を評価して戦う場所を特定することを目的とし、3C分析は自社が勝つための成功要因を抽出し戦略策定に活かすことを目的とする。
5フォース分析と3C分析の関係
顧客の顕在/潜在ニーズ分析では、顧客属性を明確化するとともに、購買履歴、購買動機、購買行動・購買プロセス、購買決定要因(KBF:Kye Buying Factor)を分析する。特に、顧客の顕在ニーズだけでなく、潜在ニーズや未充足ニーズを把握することが重要である。
顧客の潜在ニーズの把握には、市場調査、アンケート調査、VOC解析、顧客観察など、インタビューやリサーチを行うことをお勧めする。日々の業務に没頭するあまり、顧客との距離が離れた場所でビジネスを行っていることが良くある。顧客理解はビジネスの基本である。
競合分析
競合分析では、競合他社を特定し、業界内でのポジショニングや力関係を把握するとともに、個別企業の強みやビジネスモデルの把握を行う手順となる。市場分析と競合分析の結果は、業界KFSの導出に繋げる。対象業界で勝つためには、どのような要件を満たす必要があるかを明確にすることが重要である。
競合分析で把握したい項目は大きく6つある。競合分析では、競合他社の市場・顧客へのアプローチを把握する。
- 市場占有率と推移
- 業界内でのポジショニングと力関係
- 業績推移(成長性・収益性)
- 提供製品・サービスの特徴と強み・弱み
- 顧客数や特徴
- ビジネスモデル、ビジネスプロセス(製販開発)
競合分析は、公開情報が限られていることもあり、中堅・中小企業においては手薄になることがある。競合分析の充実度や精度が高い企業は、営業やマーケティング部門が強い傾向がある。日々の顧客接点活動において、競合他社の有益情報を把握していることが多い。
競合分析が弱い企業は、是非、営業・マーケティングの強化に取組んで欲しい。
自社分析
自社分析では、顧客分析と競合分析で抽出した業界KFSを満たすための戦略と、自社が業界で勝つための要件を明確にする。業界KFSを満たすだけでは競争に勝てない場合もあるため、自社KFSを明確にすることは非常に重要である。
自社分析で把握したい項目は大きく5つある。
- 対象事業の業績推移(成長性・収益性・生産性、顧客別/製品別/地域別)
- 対象製品・サービスの強み・弱み
- 組織能力(マーケティング・営業・製造・サービス・体制・デジタル)
- 技術力・製品開発力
- マネジメント(顧客管理・顧客接点管理・高速PDCA・組織人材管理・経営管理)
自社分析は、競合分析とは反対に、日常的に行っている企業が多いと思われる。日頃の分析結果を有効活用して欲しいが、改めて組織能力の評価は行ってみて欲しい。
組織能力とは、組織的な戦略実践能力(Capability)のことであり、競争に勝つための組織能力を洗い出した上で、5段階で評価することができる。
組織能力の成熟度評価
5段階の成熟度 | 評価基準・実現している水準イメージ |
Level5:先進(Leading) | 業界や地域において先進的な取組みを行い、競争優位性を構築している |
Level4:最適化(Optimizing) | 組織間やグループ間で連携し、全体最適な取組みが行われている |
Level3:実践(Practicing) | 統一プロセス・基準に基づき基本的能力が実践されている |
Level2:発展途上(Developing) | 個別部門の取組みに留まっており、充分な成果が得られていない |
Level1:気づき(Aware) | 課題認識されているが、具体的な施策は行われていない |
3C分析の活用方法と注意点
中堅・中小企業が3C分析を活用する際の典型的なシーンを紹介し、注意点を整理する。
中堅・中小企業における活用シーン
3C分析は、非常に良く活用するフレームワークで、成長戦略を考える際には必ず利用する。また、戦略立案の際だけでなく、日々のビジネスにおいて、常に頭において業務を行うことで、戦略思考が身に着く。
日常使い
コンビニエンスストアで手に取ったコーヒー飲料やお酒を製造するメーカーの社長になったと仮定する。市場規模を推定し、どの程度の市場占有率があるかを考えてみる。競合他社も浮かんでくるはずで、どのような顧客ニーズに対して、製品開発を行い、販売チャネルの選択を行い、価格設定とプロモーションを行うべきかを考える。
競争で勝つための要件は何かを10-15分程度で考えてみる癖をつけると、日々のビジネスでの応用が利くようになる。毎日こうした思考を繰り返すと、年間240回の思考訓練をすることになり、実践している人としていない人の能力差は非常に大きいと推察する。
中期経営計画・年度事業計画策定における活用
中期経営計画や年度事業計画を策定する際は、改めて3C分析による事業環境分析を行って欲しい。業界で勝つための業界KFSは常に同じではなく、顧客や競合他社の変化に応じて変わる。デジタル技術を含めたテクノロジーの変化が激しい事業環境では、一定期間で戦略実践の現在地を評価することは非常に重要である。
前述の通り、3C分析と合わせて、PEST分析や5フォース分析など、事業環境分析に活用できるフレームワークを総動員して、競争に勝つための成長戦略を描くことが大切である。
営業・マーケティング戦略における活用
営業部門・マーケティング担当者にとっては、3C分析は基本ツールであると言って良い。その際は、3つの観点から俯瞰的に分析する「鳥の目」と、実際の現場で起きている事実を正確に把握する「虫の目」の両方を活用して欲しい。
散見するケースでは、「鳥の目」を中心に分析が行われた結果、分析や計画止まりで終わってしまう。戦略や重点施策を描き、成果を出すために実践することが重要であり、「虫の目」との統合が重要となる。
中堅・中小企業における注意点
中堅・中小企業が3C分析を行う際の注意点を整理する。
一次情報である自社保有の情報は、有効活用する必要がある。但し、中堅・中小企業の場合、顧客データベースやCRMなどが整備されていないケースもある。その場合は、顧客インタビュー調査を中心に、実際の顧客の声を情報収集することをお勧めする。
二次情報も有効活用したい。特に、外部調査会社が行っている調査データや競合他社や同業大手が出している市場調査データなどは参考になる。もちろん独自の解釈をしているケースもあるため、内容の精査は注意する必要がある。
- プロジェクトチームを組成して分析する
担当者のみで分析するのではなく、組織横断でプロジェクトチームを組成した上で、役割分担を決めてチームで分析することをお勧めする。
分析結果は、チームで共有するとともに、解釈や意味合いの導出のためにチーム討議を行う。場合によっては合宿を設定し、集中的な課題定義と戦略導出を行うことは有効である。
- 実践とレビューを繰り返す
分析結果は、必ず実践につなげることが肝要である。完璧主義から、実践につながらないことも多い企業もあるが、実践とレビューの繰り返しにより、分析結果の品質や戦略の妥当性は向上する。
実践すると、新しい発見も生まれる。したがって、3C分析を含む事業環境分析の結果、導出した課題と戦略・施策を必ず実践して欲しい。特に、経営者や組織の責任者は、メンバーに実践経験を成長機会として提供して欲しい。
以上3点を意識して、3C分析に基づく成長戦略策定を行ってみて欲しい。