ビジネススクリーンとは
ビジネススクリーンは、米国のGEとマッキンゼーによって開発された事業ポートフォリオ管理ツールである。産業の魅力と自社の強み・競争力の2軸で事業を整理し、それぞれ高・中・低の3段階で評価を行うため、9象限で分類することができる。そのため9ボックスマトリックスとも呼ばれる。
GEとマッキンゼーにより開発されたポートフォリオ管理ツールのため、大企業や複数事業を展開している企業が各事業の戦略方向性や投資の優先順位を評価する際に役立つアプローチである。中堅・中小企業においては、複数の商品やサービスのカテゴリを展開している企業においては応用が利く。
ビジネススクリーンでは、縦軸に産業の魅力度(Industry Attractiveness)、横軸に自社の強み(Competitive Strength)で評価を行い、9象限に対象事業を分類する。9象限の各事業の位置づけは、大きく3つの戦略方向性が考えられる。
Invest/Grow 戦略
- 継続投資による成長が期待できる最適なポジションに位置づく
- 優位性維持には投資が必要で、最大の課題はリソースの制約であることが多い
- 大きな戦略の方向性としては、「優位性維持」「成長投資」「地位確保」が挙げられる
Selectivity/Earnings 戦略
- 投資決定は、ビジネスの見通しによって変わる
- ビジネスの進捗と改善を注意深く監視し、必要に応じて軌道を修正が必要
- 大きな戦略方向性としては、「選択的投資」「選択的強化」「現状維持」が挙げられる
Harvest/Divest 戦略
- 現状のビジネスに有望な見通しが見えないポジションに位置づく
- 事業売却(カーブアウト)による現金化と撤退を検討する必要があるケースがある
- 大きな戦略方向性としては、「利益確保」「限定拡大」「撤退」が挙げられる
産業の魅力度と自社の強みの評価項目は、産業によって異ることもあり、重みづけも異なる可能性がある。ここでは代表的な評価項目を紹介する。適宜、自社の事業特性に基づき変更して活用して欲しい。
産業の魅力度(Industry Attractiveness)の評価項目例
企業の成長余地は、成長産業でどのようなポジショニングを獲得できるかが非常に重要となる。したがって、競合他社が少ない方が魅力的になる。
また、中堅・中小企業の場合、大手企業が参入しづらい市場規模や顧客セグメントの選定が重要になることが多いため、単純に市場規模が大きい市場が魅力的になるとは限らない。
具体的には、以下のような評価項目について検討を行い、可能な限り数値化の上、判断することが重要である。
- 市場規模と成長率
- 収益性
- 競争環境
- マクロ環境(政治、経済、社会、技術)やメガトレンド
- 参入障壁や撤退障壁
- 求められる技術水準・レベル
- 事業機会や脅威の出現
自社の強み(Competitive Strength)の評価項目例
自社の業界内での競争優位性を評価する。評価項目は、競争戦略を立案する際に分析する手法と似ており、自社と競合他社との力関係や自社の独自性についての評価項目が多い。
具体的には、以下のような評価項目について検討を行い、産業の魅力度と同じように、可能な限り数値化の上、判断することが重要である。
- 市場占有率
- 市場占有率の拡大可能性
- ブランド認知度
- 事業の利益率
- 顧客ロイヤルティ
- ブランドや商品の独自性
- 自社の強みと弱み
ビジネススクリーンは、実務的には必ずしも9象限に分けて整理しなくても良い。スコアリングもしくはレイティングにより数値化された事業を2軸にマッピングしてみると、俯瞰的に各事業の位置づけを見える化することができる。
ビジネススクリーンの活用方法と注意点
中堅・中小企業がビジネススクリーンを活用する際の典型的なシーンを紹介するとともに、注意点を整理する。活用シーンは大きく3つある。
中堅・中小企業における活用シーン
1. 複数事業の事業性評価と戦略方向性の検討
大企業同様に、複数の事業を展開している、もしくは事業部門を運営している中堅・中小企業においては、各事業の事業性評価と成長戦略の方向性を検討する際に有効である。
各事業に権限が委譲され、独立採算制型で経営されている場合、どうしても全社共通の俯瞰的な評価指標が曖昧になることが多い。客観的な外部データや市場データを活用しながら、改めて分析してみることをお勧めする。
2. 複数製品や複数サービスの事業性評価と戦略方向性の検討
単一製品やサービスを展開している企業には適用が難しいが、複数製品や複数サービスを展開している企業においては、有効活用できる。
各製品やサービスによって、対象市場や顧客が異なることがある。また、競合他社も異なることが多々ある。このような製品やサービス単位でもビジネススクリーンは有効である。一方で、市場占有率やブランド認知度などの客観的なデータが入手できないこともあるが、正確な数値データでなくても、顧客接点を担っている部門による評価やインタビュー情報にもとづく評価で代用することができる。
3. ベンチマーキングによる戦略検討
自社の事業ではなく、注目する企業の分析の一環で、ビジネススクリーンを活用することも考えられる。特に、利益ある成長を遂げている企業をベンチマーク対象に選定し、どのような事業ポートフォリオを構築しているかを整理することは、自社の成長戦略の立案の際にも非常に示唆がある。
更に、現状の事業ポートフォリオだけでなく、過去からの変革推移も分析すると、どのような戦略視点や組織能力が必要かも考えることができ、是非ベンチマーキングは挑戦してみて欲しい。
中堅・中小企業における注意点
PPM分析では、非常にシンプルな2軸展開により事業ポートフォリオを見える化し、戦略の方向性と投資の優先順位を検討することができた。一方で、ビジネススクリーンは、複数指標の分析によりスコアリングするため、主観的な判断要素が入る余地が大きい。
特に、各指標間の重み付けは注意が必要である。大企業とは異なり、市場定義や市場データが不足しているケースもあるため、どうしても仮定や推計が必要な場合も多い。
また、製造業の場合、保有技術の水準・レベルについての評価など、主観的になることがある。こうした場合の対策は、外部インタビュー(顧客や業界専門家など)による評価を是非取り入れて欲しい。市場データの代用としては有効であり、ビジネススクリーンの整理の過程で、様々な示唆が得られることが多い。