営業におけるクロージングとは
営業におけるクロージングとは、営業活動の最終段階であり、契約・受注に向けた最終フェーズのことである。クロージングの役割は契約・受注につなげることであり、クロージングが成功するか失敗するかによって、営業成績に差異が生まれる。受注率向上には重要なスキルとなる。
商談の締めくくり
営業活動において、商談の最終フェーズであり、契約・受注の締めくくりがクロージングである。既に顧客ニーズに対応した提案・見積を提示している段階であり、最後の一押しの段階である。
従って、何が「最良の最後の一押し」かを見極め、適切な対応を行うことが、非常に重要となる。クロージングでスムーズに契約・受注に至らない場合は、営業ステージの前工程に問題があるか、もしくは顧客への最後の一押しができていないかのいずれかである。
クロージングが成功する前提条件
成果を出す営業担当となかなか成果を出せない営業担当の大きな違いは、クロージングを含む営業プロセスの全体像を明確に意識して活動を行っているかどうかである。
したがって、クロージングが成功するかどうかは、営業プロセスの前工程の取組み内容の品質によって大きく変わる。クロージングに時間がかかったり、手戻りが発生したり、最終フェーズで商談の滞留が起きる場合は、営業プロセスの前工程の活動内容をチェックする必要がある。
営業プロセスの流れ
そこで、営業プロセスの全体像を確認する。営業プロセスを整理する際のポイントは、顧客の購買プロセスに沿って自社の営業プロセスを定義することである。
顧客の購買プロセスの理解
営業プロセスの流れを描く時の盲点であり、陥りがちな課題がある。顧客の購買プロセスを明確に描かずに、自社の営業プロセスを設計することである。
顧客の購買プロセスを理解することが有効な営業プロセス設計の第一歩であり、さまざまな営業関連のフレームワークやモデルを活用する前の基本動作である。
BtoB領域の事業を行う顧客の購買プロセスは、発注に向けて大きく5つのプロセスに分けられる。集中購買の場合、各部門による分散購買の場合のいずれにおいても適用できる。
- 事業環境の分析
- 問題認識・課題の整理
- 購買方針・要件の整理
- 比較・検討
- 交渉・社内調整
インターネットやデジタルマーケティングの進展により、企業の購買行動は大きく変化している。その結果、サプライヤーの営業担当者と面談する前に、購買担当者は対象商品やサービスの基本情報収集は行っており、購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)を明確にしていることが多くなっている。
従って、顧客の購買プロセスに沿った営業プロセスを設計し実践することは、従来にも増して重要となる。特に、営業プロセスの前工程の取組みの重要性が増している。
営業プロセスの全体像
顧客の購買プロセスに沿って、営業プロセスは大きく5つに分けることができる。
営業ステージ1:顧客理解
顧客の基本情報を理解する営業ステージである。顧客の事業・製品・サービスを理解し、競合他社との違いや対象業界を理解することが必要である。また、顧客社内の組織体制とキーパーソンを把握することで、商談を進める対象を明確にすることが重要である。
営業ステージ2:顧客ニーズ・課題把握
顧客のキーパーソンや担当者との面談(対面、リモート問わず)により、現在の顧客ニーズと優先課題を把握する営業ステージである。特に、現状の不満を把握することは案件化に向けたポイントになる。顧客から得られた情報にもとづき、想定される購入要件の仮説を描き、興味喚起と動機付けのステージに移る。
営業ステージ3:興味喚起・動機付け
顧客のキーパーソンに対して、購買検討に向けた興味喚起と動機付けを行う営業ステージである。他社との違いと自社の独自性を訴求し、期待効果について合意形成を図っていく。顧客が優先する購買決定要因を把握することが重要である。価格も一つのKBFではあるが、その他のKBFもしっかり押さえる必要がある。
営業ステージ4:提案・見積
顧客との商談で鰓得た情報にもとづき、具体的な課題解決方法をまとめる。提案書と見積書を作成し、プレゼンテーションを行う営業ステージとなる。提案内容はもちろん、プレゼンテーションではコミュニケーションによる差別化が重要となる。信頼できる担当者として評価されるかどうかも購買決定要因の一つであることが多い。
営業ステージ5:クロージング
営業プロセスの最終段階であり、締めくくりの営業ステージである。「提案したら結果を待つ」という受動的な姿勢ではなく、能動的に契約に向けた阻害要因や非合意ポイントの把握と解消に努めることが受注率向上につながる。また、顧客の社内プロセス手続きの支援も行うことで、契約・受注につなげることが大切である。
前述の通り、クロージングに向けた営業ステージは4つあり、クロージングに向けた質の高い営業活動を行うことが受注率向上の成功要因となる。クロージングの精度を上げるためにも、営業プロセス全体の実践力を高めることを意識したい。
クロージングで使えるテクニックとコツ
最後に、クロージングで使えるテクニックとコツを紹介する。業界や商談内容によって異なるため、適応できるかどうかは判断が必要であるが、技術の引き出しとして活用して欲しい。
クロージングテクニック
ゴールデンサイエンスを遮らない
ゴールデンサイレンスとは、提案後の顧客が考え込む沈黙の時間のことである。顧客は提案を受けて、導入後の成果イメージや想定リスクを頭の中で整理している。したがって、そのタイミングで焦って口をはさまず、顧客の反応を待つことが重要である。相手の思考を中断せず、顧客のペースで商談をクローズすることが重要である。
損失回避の法則を使う
損失回避の法則とは、何かを得ることよりも失うことを重視する心理現象のことである。導入しない機会損失が発生することなどが挙げられる。具体的には、商品やサービスを導入しないことのデメリットやホラーストーリーを提示することになる。
ドア・イン・ザ・フェイスの原理を使う
ドア・イン・ザ・フェイスとは、行動心理学のテクニックであり、譲歩的要請法と呼ばれる。顧客が断る可能性が最も高い提案を最初に行うことによって、次の代替案(こちらが本命提案)を顧客に認めてもらう手法である。
イエスセット話法を活用する
イエスセット話法とは、顧客との交渉の中で「Yes」を何度も引き出すことで、本命提案の質問でも「Yes」と答えやすくさせる心理学の一貫性の法則にもとづいたテクニックである。購入・契約に比較的前向きな顧客に対しては有効な話法であるが、押し売りにならないように気をつける必要がある。
イエスバット話法を活用する
イエスバット話法とは、顧客と意見対立が生じたときに活用する話法で、相手の意見を聞いた上で自分の意見を提案する手法である。顧客の意見を真っ向から否定するのではなく、傾聴した上で反対意見を提示するため、顧客の心証を悪化させない効果がある。
クロージングのコツ
顧客が発注しない理由を把握し、能動的に解消する
自社に対して顧客が正式な発注をしない場合、何かしらの理由、障害、迷い、不安、非合意のポイントが存在する。提案やプレゼンテーションの後、時間を空けずに顧客に確認することが必要である。その際は、自社に対するQCDS(品質、費用、納期や導入スピード、サービス)の評価を確認しつつ、競合他社との評価の違いを把握したい。
顧客の社内承認プロセスを把握し、積極的に支援する
顧客の社内承認プロセスを理解することは、クロージング以前に行っておくべき活動である。しかし、クロージング段階でも社内稟議が滞留することは良く発生する。社内稟議資料の作成、導入の必要性の明文化、期待効果の明確化など、稟議の起案者には骨の折れる業務が存在する。
こうした業務負荷を軽減するための支援を積極的に行うことで、顧客との信頼関係が構築できる。契約・受注後の関係性もスムーズになるため、積極的に社内承認プロセスの支援を行う必要がある。
まとめ
クロージングは、営業プロセスの最終段階であり、受注率向上に向けた締めくくりに位置づく。具体的な提案・見積の提示やプレゼンテーションを行ったあと、営業活動を終了し「結果待ち」とする営業担当は多く存在する。
クロージングの巧拙によって受注率の差異が生まれることはあり、契約・受注に至るまで気を抜かず、顧客に寄り添った営業活動を実践して欲しい。