借入が難しいとされる中小企業
中小企業や創業間もないベンチャー企業は、一般的には金融機関からの資金調達のハードルが高いと言われる。資金調達が難しい理由は、大きく2つ考えられる。一つ目は、直接金融が難しいこと。二つ目は、銀行に提供できる担保が少ないことが挙げられる。
例えば、株式発行による資金調達においては、社会的な信用性が低いだけでなく、将来の成長ストーリーを具体化した事業計画が必要となるため、経験が少ない中小企業やベンチャー企業にとっては準備が難しいことが多い。また、そもそも投資家やベンチャーキャピタリストとのネットワークがない場合も多い。成長が著しいベンチャー企業(スタートアップ等)でもない限り、実質的に出資や社債を利用することは難しいのが実態である。
また、担保不動産が少ないことも資金調達が難しい要因となる。資産価値のある不動産を担保にすれば銀行融資を受けられる可能性はあるが、多くの中小企業では不動産を含めた資産を持ち合わせていないケースも多い。こうした背景もあり、新型コロナ危機以前においては不動産等の従来型担保に依存せず企業の事業収益を審査し、その資産 (在庫、売掛債権等)を担保とする「動産・債権担保融資(Asset-based Lending :ABL)」が普及してきた。
結果、中小企業の資金調達方法は、信用保証協会や経営者などの保証、および不動産や動産・債権といった担保を伴う融資が上位を占めることになる。
但し、2020年からの新型コロナ危機を受けて、金融機関の中小企業向けの貸出残高は増加している。中小企業向けに貸出しを行う金融機関の業態別推移をみると、減少傾向にあった政府系金融機関の貸出残高が2020年に入り大幅に増加していることが分かる。また、リーマン・ショックの起きた2008年以降は、国内銀行・信託では貸出残高が減少傾向にあったが、感染症下では大幅に増加している。民間金融機関においても、実質無利子・無担保融資制度を活用しながら、積極的な融資姿勢を示したことが推察される。
中小企業の資金調達方法 ~借入~
中小企業にとっての主な資金調達先は、政府系金融機関や銀行(信用金庫や信用組合を含む)になることが多い。但し、政府系金融機関は融資額が少ない傾向があるため、複数の金融機関からの資金調達が必要になる。したがって、経営者や経理・財務担当者にとって重要なことは、さまざまな資金調達の選択肢を理解し準備しておくことになる。
金融機関からの借入のメリットとデメリットを整理する。中小企業の場合は資金繰り管理をする上でのメリットが大きいと言える。収益力が高い無借金経営を志向する経営者も存在するが、中小企業の多くは借入を有効活用することで、デメリット以上の事業運営効果を得ることができると言える。
メリット | デメリット |
・資金繰り改善につながる ・手元資金が増加し必要な経営施策が実施できる ・設備投資、商品開発などへの挑戦 ・必要人材の採用の強化 ・不測の事態への対応 ・金融機関からの信用度が増す | ・融資返済へのプレッシャーがある ・利息を支払う必要がある ・意思決定の自由度が下がる ・事業承継・M&Aの際に障害になることがある |
中小企業の資金調達方法 ~株式~
中小企業におけるエクイティ・ファイナンスの概要
中小企業の多くは、資金調達が必要な際に金融機関による融資を利用しており、株式発行による資金調達(エクイティ・ファイナンス)を利用するケースはほとんどない。しかし、新規事業の立ち上げやR&D、他社のM&Aなどに取り組む際に、必要な資金調達を考える場合には、リスクマネーとしてのエクイティ・ファイナンスを活用する余地が大きいと考えられる。
中小企業庁の調査によると、中小企業者の4割が、ポストコロナを見据えた事業転換や事業化までに時間のかかるビジネス、中長期的な研究開発を目的に、エクイティ・ファイナンスの利活用を検討したいと考えていることが分かった。
一般借入 | 劣後ローン | 補助金 | 増資 | |
利用目的 | 経常運転資金 設備投資(既存事業に関連する追加投資) | 経営危機の際の資金繰りの安定化 | 新規事業や生産性向上等への取組みや投資 | 新しい取組み(新規事業や事業拡大等)や事業の転換(事業再生等)を行うための投資 |
概要 | 金融機関等からの負債として資金を調達する方法 返済期限が1年以内のものは流動負債に、1年超のものは固定負債として決算書に計上 担保や保証を差し入れる場合がある | 金融機関等からの負債として資金を調達する方法 一般に、長期間かつ返済も据置期間が設定されることが多い | 国や地公体等から、事業者の取組みをサポートするために費用の一部を給付される資金 政策目標(目指す姿)等に合わせて募集されるもので、取組みに対して一定の割合・上限額の中で、助成を受けることができる | 株式発行により、資金を調達する方法 資本として受け入れるため、純資産として決算書に計上される 広く出資を募ることを公募、特定の出資者からの増資を受けることを第三者割当増資という |
メリット | 債務履行(返済・利息支払)を継続している限りは、特段の定めがある場合を除き、債権者からの関与はない 現在の金利環境では、比較的低コストで資金調達ができる | 返済が当面猶予される場合が多く、長期的な取組みへの資金として活用し易い 金融機関の信用判定において、資本として解釈されることも多い | 資金使途違反等、需給条件に違反しない限り、返済の義務は生じない | 返済が伴わないことから、財務基盤の安定に繋がり、企業としての信用力向上の効果がある 株主から経営や事業運営のサポートを受けられる場合が多い |
デメリット | 事業が上手くいっているかどうかに関わらず、償還条件の通りに返済を行う必要がある 企業の信用力がなければ、借り入れることができない。 | 債権返済順位が一般借入等に劣後することを含め、貸し手のリスクが高いことから、一般借入と比較して金利が高くなる場合が多い | 資金使途や助成金額が限られている場合が多い | 議決権その他の権利を新規株主が持つ場合、経営への関与や優先配当等、経営の自由度が低下し、負担が大きくなる場合もある |
エクイティ・ファイナンスの出資者
チャレンジの内容や所要資金額等によって、適切な出資者を選択することが重要となる。出資者の候補として、金融機関(投資ファンドを含む)のほかに、事業をよく理解している親密な取引先(仕入販売先)が挙げられ、ビジネスパートナーとしてともにチャレンジに取組む事例も見られる。
金融機関・投資ファンドから出資を受けることの利点
金融機関や投資ファンドは、所要資金額が大きい取組みにも検討を進めることができるほか、チャレンジ成功のキーが経営管理や組織体制の改善・強化等である場合や出資者の多様なネットワークによる支援を期待する場合にも有効な出資先候補となる。なお、銀行はグループ内に投資ファンドがある場合や、親密な投資ファンド等のネットワークを持つ場合が多いことから、エクイティ・ファイナンスを検討する際には、先ず取引銀行に相談することも有効な手段となる。
取引先から(へ)の出資を受ける(行う)ことの利点
親密取引先は当社の事業をよく理解していることも多く、出資を受ける際に、チャレンジに対する評価も適切に行えるほか、取組みに対して実務的な支援も期待できる。加えて、取引先の新規事業開発や事業転換への取組みに対して出資を行うことは、事業シナジーが生まれやすく、自社の成長投資と位置付けられると考えられるまた、取引先から出資を受けたい、または出資をしたい場合にも、その検討(選定や交渉等)に不安がある時は、取引銀行に相談しサポートを求めることも有効である。
中小企業によるエクイティ・ファイナンスのメリットの事例
- 経営・財務面の支援(取引銀行からの出資)
- 会社の成長時期に取引銀行からの出資を受けた経験を持つ事業会社Aは、会社に合わせた経営面や財務面での専門的な助言について高い評価をしている
- 現在でも、引き続き取引銀行が株式を保有しており、安定的な銀行取引が実現している
- 加えて、株主という関係は経営上のリスクを共有していることから、他行からの取引提案に関しても安心して相談することができる関係が構築されている
- 専門人材の供給
- 地方の中小事業者は財務面での専門人材の雇用が容易ではない場合が多いが、事業会社Bは取引銀行からの出資を受けたことによって、月次報告を通して、経営や財務での専門的な助言を受けており、配当金以上のメリットを感じると評価している
- 地方の中小事業者は財務面での専門人材の雇用が容易ではない場合が多いが、事業会社Bは取引銀行からの出資を受けたことによって、月次報告を通して、経営や財務での専門的な助言を受けており、配当金以上のメリットを感じると評価している
- 取引先である大企業から出資を受けた事業会社Cは、自社では採用が難しかった財務や経営管理の専門人材を出資先から受け入れることができ、経営管理が強化された
- 財務体質の改善
- 事業会社Dは、取引先より新規事業に必要な資金をエクイティ・ファイナンスにより調達した
研究開発や新規事業におけるエクイティ・ファイナンスの活用は、資金繰りに追われる心配が少ないことが大きなメリットであると感じ、過去実施した取組みのために調達した借入金についても、段階的にエクイティ・ファイナンスに切り替えた。
まとめ
資金調達は経営において重要な議題であり、様々な調達方法が存在する。安易な資金調達を続けていると様々な問題が後々になって出ることも珍しくない。メリット・デメリットをしっかりと理解したうえで資金調達を実行することが中長期的な会社の発展の礎になる。