アドバンテージマトリクスとは
アドバンテージマトリクスとは、米国経営コンサルティングファームのボストン・コンサルティング・グループが考案した、産業の競争環境を分析するフレームワークである。「競争上の要因の数」「事業の優位性構築の可能性」という2つの軸で、4象限の事業類型に分類する。各事業類型によって経済性が異なり、戦い方が異なる。
競争要因とは、競争の性質を決する変数のことで、産業によって異なる。製品・サービスの品質、価格帯、サービス内容、製品仕様・スペックなど、多くの変数が考えられる。競争要因(変数)が多く複雑なほど、勝ち負けが決まりにくく競争は激化する。逆に、競争要因が少ないほど、勝負は単純に決まることを示す。
優位性構築の可能性とは、競争要因によって競合他社に優位性を確立できる可能性を示す。優位性構築の可能性が高いということは、競合他社が真似できない強みや戦い方を確立していることを意味する。優位性構築の可能性の一つとして規模の経済性が挙げられるが、事業規模が大きくなるほど単位当たりのコストが下がり、競争上有利になる。
4つの事業類型を整理する。
特化型事業
特化型事業とは、競争要因の数が多く、特定領域で優位性を構築する可能性の大きい事業になる。日本の競争力が強い、各領域で優良企業が存在する電子部品産業や精密機械産業などが代表例となる。特化型事業は、特定領域に特化した製品・サービスを提供することで、市場占有率を寡占化できる可能性が高い事業である。
特化事業型の場合には、収益性と規模の間に相関関係はなく、事業の規模以外の競争要因で優勢性を築くことが可能な特徴がある。
分散型事業
分散型事業とは、競争要因の数が多いため、市場競争は激化しやすく優位性構築の可能性も小さい事業になる。規模の経済性が働きにくく、規模が小さい段階では収益確保が可能であるが、規模を拡大すると収益の維持が困難になる。飲食店・美容室・アパレルなどが代表例となる。
マイケル・ポーター教授は、この事業類型を「多数乱戦業界」と定義した。この事業領域では、店舗などの経営者の現場での資質などの属人的要因が成功の鍵となることも多く、企業全体としての優位性の確立が困難である。革新的な経営手法を導入しないと規模の経済が効きにくく、事業拡大が進まない特徴がある。
規模型事業
規模型事業とは、競争要因の数が少なく、優位性確保のための変数が多い事業になる。優位性を高めるために産業の中での市場占有率を高めることが重要であり、事業規模が大きくなるほど、収益性も高まる傾向がある。
規模型事業に当てはまる産業は、プラットフォーマーであるGAFAや自動車産業、化学業界などの大きな設備投資が必要な産業が多く、規模の経済性を活かして収益性を高めることができる産業が代表例である。
手詰まり事業
手詰まり事業とは、競争要因の数が少なく、優位性構築の可能性も低い事業となる。事業規模を大きくしても収益性が高まらず、産業のライフサイクルが衰退期に位置づく。例えば、従来型の素材型事業などは大規模化の限界に近づき、企業間のコスト格差が縮まっている。構造不況業種となっている可能性がある。
手詰まり型事業では、競争要因が非常に少ないため、一部の新規特殊製品・サービスに特化しているような企業のみが、コスト優位や技術上の差別化を実現しているような産業になることが多い。
4つの事業類型のうち、手詰まり事業と分散型事業は収益性が低い事業であるため、特化型事業もしくは規模型事業への転換を検討することになる。
アドバンテージマトリクスの活用方法と注意点
中堅・中小企業がアドバンテージマトリクスできる活用シーンを紹介し、注意点を整理する。
中堅・中小企業における活用シーン
基本的には、競争優位戦略のフレームワーク活用と同様に、中期経営計画の策定、製品戦略の策定、支店戦略・営業戦略の策定の際に有効となる。
その他の活用シーンとしては、事業構造の転換を図りたいときの基本分析をする際に活用することができる。不振な事業を再構築し、特化型事業や規模型事業で収益力を高めるための戦略と施策を検討する。現在の事業が4象限のどこに位置づくのか、実態を見える化し、課題と戦略の方向性を抽出する。
分散型事業の典型例である飲食業・美容院・アパレル業では、零細・小規模の段階では収益性を確保することができるが、多店舗展開をしようとするとコストが増加し、収益性が落ちる。規模型事業へ進化させるか、複数の小規模業態でポートフォリオを構築するか、検討する必要がある。
中堅・中小企業における注意点
競争優位戦略のフレームワーク同様に、アドバンテージマトリクス単独での分析結果だけでは成長戦略は描けないため、複数の分析による示唆に基づき戦略を策定し、意思決定する必要がある。
また、中堅・中小企業の場合、大手企業とは異なり、特化型事業の強化や創造が主要な戦略となることが多いため、規模の経済以外の競争要因に着目し、成長戦略を描くことが必要となる。
従って、常に特化型事業の競争要因に対するアンテナをはり、情報収集や示唆を得ることが大切であり、自社が身を置く産業以外の特化型事業も含めてベンチマークすることをお勧めする。その際は、産業のバリューチェーン全体を見渡し、独自のポジショニングを確立し、高い収益性を確保しているような企業に注目して欲しい。どのような独自性や強みを梃に、事業展開しているかを分析することが重要である。