CRMとは
CRM(Customer Relationship Management)とは顧客関係管理のことで、顧客データを有効活用し、企業と顧客との関係性を管理することを示す。広義の意味では、顧客と良好な関係性を築き、その関係性を継続・維持していくための戦略と取り組みであるが、狭義の意味では、顧客管理を行う情報システムやツールを示すことも多い。
広義のCRM
企業のマーケティング活動においては、新しい顧客開発に注目が集まることが多い。ただし、昨今の事業環境の変化を踏まえると、既存の顧客との関係構築を通じて、継続的な取引を維持することは、ますます重要になってきている。
B to C事業であれば、個客のニーズや要望に対する適切なアプローチが求められる。個客の要望に応じて仕様変更が可能でありながら、かつ大量生産も実現する手法であるマス・カスタマイゼーションの事業モデルも登場し、IT基盤を活用しながら、適切な顧客関係構築と増収を実現するための取り組みが必要となる。
B to B事業であれば、顧客の魅力度と関係の深さから顧客セグメンテーション評価を行い、重点化を進めながら有限な営業やマーケティングのリソースを配分するアプローチが必要である。また、顧客の購買特性も把握し、適切な製品やサービスの能動的な提案も求められる。
狭義のCRM
狭義のCRMは、顧客管理システムやツールを意味する。B to C事業、B to B事業のいずれにおいても、顧客情報は膨大な量となってきている。もちろん中小企業で特定顧客に依存している場合は、CRMシステムは不要ではあるが、顧客管理には手間と時間がかかる傾向がある。
こうした顧客管理に関する課題を解決するツールがCRMであり、顧客の属性情報から顧客の購買情報、更には顧客接点を担う営業やマーケティング部門の活動結果の情報などを蓄積し、顧客との関係構築の強化に向けて有効活用できることが重要となる。
CRMが必要とされる背景
CRMの必要性と重要性が強調される理由は、大きく3つある。
顧客接点力が企業の競争優位性になる
従来の顧客接点は、営業や店頭の販売員、その他にはテレビ広告などのマスメディアが挙げられる。従来型の顧客接点では、顧客データといえば販売実績が中心であった。顧客の購買に至るまでの行動履歴や関心ごとなどは、なかなかデータ化することが難しかった。
インターネットやデジタル技術の進展により、顧客の購買行動自体が変化するとともに、顧客の購買行動がデータ化され、マーケティングに活用できる基盤が整ってきた。そのため、顧客接点で得られた有益情報を蓄積し、適切に活用できる組織能力が求められ、競争優位を構築する要因となってきた。
顧客との中長期的な関係とLTV(ライフタイムバリュー:顧客生涯価値)が重要になる
顧客ニーズや購買行動が多様化するに従い、新しい顧客開発に経営資源を投資するより、既存の顧客の満足度を高め、より良い商品やサービスを提供することで、顧客のLTV向上を図ることが重要になってきた。また、デジタルマーケティングの費用対効果も見直されつつあり、新規顧客の獲得コストは年々高まっていると言える。
したがって、顧客関係を適切に管理し、より効果的かつ効率的なマーケティング施策を展開することが重要となり、CRM戦略やその実行基盤としてのCRMツールの重要性が増している。
顧客管理に関するデータ活用技術やITの進化
顧客データの分析にとどまらず、顧客接点業務と直結したソフトウェアやITツールが登場し、マーケティング部門だけでなく、営業部門やサービス部門に至る顧客接点部門でのCRM活用が可能となった。
具体的には、コンタクトセンターでのCTI連携による顧客データ活用、マーケティングオートメーション(MA)ツールとの連携による顧客アプローチの自動化、営業活動を支えるSFAとの一体管理など、さまざまな顧客接点業務におけるデータ活用と業務利活用が高まった。
CRMの主な機能
CRMには顧客接点における活動実績を記録し、組織内で共有するさまざまな機能が実装されている。大きく6つの基本機能がある。
顧客情報管理
顧客情報管理とは、顧客の基本属性情報(顧客名、部門名、業種、デモグラフィック属性など)に加え、取引情報や面談情報(日時や商談内容など)などを管理する機能である。
顧客情報は、外部の有料データベースの情報を取込むことで、さまざまな分析やセグメンテーションが可能となり、カスタマイズすることで自社での管理項目を柔軟に追加することが可能となる。また、顧客情報はコード体系で管理され、さまざまなデータと紐づけされ、分析が可能となる。
商談機会管理(オポチュニティ管理)
オポチュニティ管理とは、営業活動において認識できた商談機会を管理する機能である。日本企業の場合は、受注管理や受注確度管理は一般的であるが、商談機会を認識し、営業プロセスを通じて醸成していくマネジメントは意外と行われていない。
営業プロセスの前工程において、顧客との関係構築を行うことで、より深い潜在ニーズ把握や関心ごとに対して動機づける活動を行うことで、価格競争に陥るリスクを軽減することができる。
営業プロセス管理
営業プロセスを定義し、タスクを割り当て、活動実績を共有・報告するなど、一連の顧客接点活動を管理することができる。営業担当は、営業マネージャーへの報告や情報共有を行うことができ、見積作成機能も連携することで、社内承認などのワークフロー機能も実装することができる。
情報配信
顧客に対してメールマガジンを配信し、開封率やクリック率などの検証を行うことで、より良いアプローチとなるように改善することができる。
また、社内共有においても、活動リクエストなどを発行することも可能であり、割り当てられたタスクや依頼事項が完了したかどうかをマネジメントすることも可能である。
問合せ管理
顧客からの問合せ内容を記録し、蓄積し、活用することができる機能である。一次受付のあと社内共有を行い、適切な回答を行うなど、質の高い顧客対応と社内業務の効率化の両方を実現することができる。特にコールセンターでは問合せ管理は必須の機能である。
データ分析
蓄積された顧客データをさまざまな切り口で分析し、ダッシュボードやレポートの形で表示することができる。適切な分析結果を表示するためには、入力すべきデータ項目と合わせて、表示すべきアウトプット要件も明確にしておく必要がある。
なお、CRMと合わせてBI(Business Intelligence)ツールを導入することで、より高度な分析が可能となり、改善アクションにつなげる工夫がされている。
CRMのメリットとデメリット
CRMのメリットとデメリットをそれぞれ3つずつ挙げて、導入と活用のヒントを整理する。
CRMのメリット
1. 業務生産性の向上と新たな商談機会の発掘
CRMにより顧客データを一元管理でき、営業やマーケティング活動に活用することが可能になる。その結果、従来は属人的かつ散在していた顧客データが簡単に参照し活用することができ、顧客接点部門の業務生産性が向上する。
また、蓄積された顧客データを有効に分析することで、顧客ニーズに対して適切なアプローチが可能となる。更に、マーケティングオートメーションと連携することで、パーソナライズしたサービスや提案を行うことができる。その結果、新しい商談機会を発掘することができ、増収に貢献することができる。
2.組織内およびチーム内での情報共有が促進
CRMによって顧客を起点として顧客データが統合管理されるため、どの部門やどの地域にいても、顧客データを確認し、活用することができる。部門及びエリア横断で顧客データを共有し活用することができるため、チームワークが促進される。
また、分析結果や分析に基づくアクションも設定することで、より効果的な顧客接点業務のプロセスを運営することが可能になる。もちろんエクセルに出力して活用することもできるため、汎用性が高い。CRMのダッシュボードやレポート機能のみで運用することができれば、更に効率的である。
3.顧客接点活動の見える化
顧客接点部門であるマーケティング部門、営業部門、カスタマーサービス部門の業務は、生産・物流・製品開発と異なり、なかなか業務が見えないという悩みが多くの企業で見受けられる。こうした問題解決にCRMは有効である。
もちろん顧客情報や顧客接点情報の登録が必要であるが、適切に運用することで、顧客接点業務が可視化され、有効なマネジメントの仕組みを構築することが可能である。実際の販売実績や売上・粗利情報と紐づけて分析することで、より効果的な営業マーケティング戦略の立案ができるようになる。
CRMのデメリット
1. CRM導入および運用コストがかかる
情報システム導入においては、避けては通れない論点ではあるが、CRMも同様に導入費用と運用コストがかかる。したがって、投資対効果を明確にするとともに、導入目的と目指す姿を明確にしておくことが非常に重要となる。
また、クラウド型のパッケージ商品を導入すると、自社都合でカスタマイズができないことも多い。したがって、情報システムに業務を合わせるか、あるべき業務に対応した情報システムを構築するか、企業によって判断が分かれる。そのためにも、さまざまなCRMシステムやツールが標準で実現可能な機能やサービスをしっかり把握することが重要であり、説明を聞いただけ、無料トライアルだけなど、中途半端な検証や試用だけで判断しないことをお勧めする
2. CRMが有効活用され定着するまでに時間がかかる
CRMが導入されると、顧客接点部門のメンバーは活用することが望まれる。しかし、従来の業務運用を変えることを嫌がる社員も多かれ少なかれ存在する。その結果、CRMの活用度にバラつきが発生し、組織全体で統合管理し意思決定するための高精度のデータが蓄積されない問題が発生する。
逆に、精度の高い顧客データが登録されても、マネジメント活用がうまくいかないケースも散見される。結果、CRMへの入力の役割を担うフロント部門の社員の活用意欲が低下する。
こうした負のサイクルを起こさないように、前項でも述べたがCRM導入目的と目指す姿を描き、段階的な活用計画を立案することが重要である。また、入力データの要件定義だけでなく、出力=活用データの要件を明確にし、業務プロセスでの利活用イメージを描くことが成功の秘訣になる。
3. 既存の業務プロセスや組織体制や役割を見直す必要がある
CRM導入により、従来行っていた業務プロセスが大きく変わることが良くある。但し、基幹システム(販売管理、購買管理、生産管理、会計システムなど)とは異なり、CRMシステムやツールがなくても業務が停止することはない。
したがって、従来の業務プロセスの上にCRMを導入してしまうと、うまく運用できない。繰り返しになるが、導入目的と目指す姿を描き、CRM導入後のあるべき業務プロセスと役割分担、更には組織体制も含め、見直した上で導入することをお勧めする。
CRMの活用事例
主要なCRMツールのウェブサイトで紹介されている事例を整理すると、その活用方法には傾向がみられる。B to B事業とB to C事業に分けて、活用方法の傾向を整理する。
B to B事業におけるCRMの活用事例
1. 顧客情報の一元管理と組織内での共有
多くのB to B企業では顧客情報を蓄積し、営業活動やマーケティング活動へ有効活用しようとしている。顧客情報には以下のような情報がある。
CRMで蓄積・活用する顧客情報
- 顧客との面談情報
- 顧客からの問合せ履歴
- オウンドメディアや各種コンテンツの利用状況(アクセス、ダウンロード、問合せなど)
顧客情報が顧客接点を担う部門で共有され、一気通貫で活用できるように仕組みをつくることがCRM活用の目的となっている。具体的な部門は、マーケティング部門、営業部門、カスタマーサービス部門になるが、その他にも製造部門、開発部門、品質管理部門との情報共有を進める企業も存在する。
2. 商談機会の見える化とプロセス管理
B to B企業では、受注までの営業プロセスを標準化し、商談機会を見える化するためにCRMを活用することが多い。顧客接点における顧客情報を蓄積し活用するだけでなく、商談機会(売上見込)をCRMに登録し、受注に向けた商談の進捗管理や顧客ナーチャリング(顧客育成)を目的にCRMを利用している。
商談機会(売上見込)が見える化されると注力すべき顧客と商談が特定でき、有限な営業リソースを最適配置することができる。属人的になりがちな営業活動やマーケティング活動を最適化することができる。
3. 顧客別収益の見える化
商談機会(売上見込)と合わせて受注情報や売上情報を連動することで、顧客別販売実績と見込情報を統合管理することができる。更に、売上だけでなく、粗利情報も含めて収益性を可視化することもできる。
売上至上主義に陥ることなく、顧客別収益性も統合管理することで、適切な意思決定が可能となる。商談単位で収益向上に向けた改善策を検討したり、年度単位で顧客別販売計画へ反映したり、顧客別アプローチの糸口を検討することができる。
4. マーケティング施策の改善
メールマガジンやコンテンツマーケティングの現状を見える化し、改善施策を検討するためにCRMを活用することもある。顧客起点でマーケティング施策の反応を整理し、顧客行動に合わせて適切なマーケティング施策を展開する仕組みづくりにCRMは効果を発揮する。
マーケティングオートメーションと連携させることで、顧客への施策を自動化することも可能であり、顧客数や顧客特性に応じて構築すべき仕組みは異なる。適切なCRMツールを選定することが必要となる。
5. コールセンターの効率化
コールセンターの運用基盤としてCRMを活用することも多い。CTI(Computer Telephony Integration)と連携させることで、顧客からの電話の入電と同時に顧客を特定し、CRMに蓄積された顧客情報を表示させることができる。
コールセンターでの応対品質を向上させるためにはCRMは必須の仕組みとなっており、電話対応の効率化だけでなく、その他のデジタルツール連携など、顧客対応力の向上を狙った仕組みづくりも積極的に行われている。
B to C事業におけるCRMの活用事例
1. コンタクトセンターの効率化
B to B企業同様に、消費者や会員からの問合せの対応を効率化するためにCRMを導入し、有効活用する企業が多い。B to C企業の場合は、コンタクトセンターを外注化することも多く、組織横断・外注先との顧客情報連携で活用することが多い。
また、蓄積した音声データを有効活用し、顧客ニーズの把握や顧客対応の改善につなげる企業も多く存在する。AI導入により顧客対応時間の短縮化やコスト削減を追求することも多い。
2. メールマガジン等の顧客対応の強化
One to Oneマーケティングを強化し、個客向けの対応を強化することでリピート率の向上を図る目的でCRMを導入することも多い。購買データとも突合し、顧客の購買プロセスに応じたアプローチが可能な仕組みを構築する。
昨今では、メールだけでなくLINEなどのSNSとも連携し、より多くの顧客セグメントへ適切な対応を行う仕組みづくりも行っている企業がある。
3. 会員向けポイントサービスの強化
CRMで会員情報を一元管理し、ポイントプログラムと連携させたアプローチを行う。ポイント付与は購買頻度や購買金額に応じたステージ設計がされることが多く、会員の購買履歴と、顧客の行動履歴を紐づけて、よりニーズに合ったマーケティングアプローチが可能になる。
CRMだけでなくマーケティングオートメーションやメール配信機能、顧客アンケート機能など、キャンペーンやプロモーション機能を有効活用することで、顧客ロイヤリティを高める仕組みを構築することができる。
4. 店舗対応、FC加盟店管理、残席管理など多様な顧客情報管理への対応
B to C企業の業態によって、上記以外にもさまざまなCRM活用の機会がある。
店舗運営企業では、新たな顧客接点として、顧客対応端末を設置し、顧客が入力したニーズ情報に基づく商品紹介を行う仕組みを構築している。
FC展開しているフランチャイズ企業では、FC加盟店における顧客対応実績を把握することが困難であるが、CRMによって顧客対応履歴が見える化されるだけでなく、提案や見積情報も把握でき、FC加盟店管理も効率的にできる。
オンライン予約が可能な教育サービス企業では、CRM導入により残席管理が可能になり、手作業で行っていた残席枠管理や定員キャパが異なる教室の管理を効率化できるようになった。
このように、CRM導入によって、顧客情報管理だけでなく、顧客対応などの業務の効率化や業務遂行能力の強化につなげることができる。