生成AIとは
生成AIとは、学習済みのデータを活用して、新たなテキストや画像などのアウトプットを生み出すAI(人工知能)のことである。
生成AIは、2022年に調査会社ガートナーが発表した「戦略的テクノロジーのトップトレンド」に登場し、日本でも中毛を集めた。代表的な生成AIとしては、画像を生成するAIであるStable Diffusion、対話型AIのChatGPTなどがある。
テキスト生成
テキスト生成AIは、プロンプト(要望や質問など)を入力すると自動的にテキストが生成されるAIのことである。OpenAI社が開発したChatGPTやGoogleが開発したBardが代表例である。
テキスト生成AIを活用すると、要約の作成、プログラミングのコード生成、さまざまなアイデア出しなど、さまざまな作業を効率化することができる。
画像生成
画像生成AIは、テキストで指示するだけで、イメージに近い独自の画像を生成できるAIである。利用者が多い画像生成AIの事例としては、Stable DiffusionやMidjourney、DALL·Eが知られている。
テキストでプロンプトを入力すると、AIが自動で画像を生成する。膨大なパラメーターと画像とテキストのデータセットを学習するため、プロンプトを工夫すれば複雑な画像でも生成すること可能である。
動画生成
動画生成AIは、画像生成と似ているが、テキストで指示したイメージに近い独自の動画を生成するAIである。動画生成AIは開発難易度が高いが、2023年に米国Runway社のGen-2が登場し、質の高い動画生成ができるようになり注目されている。
現段階では、短い動画生成しかできないが、今後は長尺動画の生成も可能になるかもしれない。動画生成の制作が効率化できれば、さまざまなビジネスシーンでの活用が期待できる。
音声生成
音声生成AIは、音声入力やテキスト入力によって新たな音声を生成するAIである。ある人の音声をAIに大量に学習させると、その人と同じ声でさまざまな文章を話す音声を生成することができる。
音声生成AIにより、声の収録をせずにナレーション、アフレコ、アテレコができるようになる。また、キャラクターに音声を付加することが簡単にできるようになると、新しいエンターテインメントサービスが生まれる可能性がある。
生成AIと従来のAIとの違い
従来のAI(識別系AI:Discriminative AIを指すことが多い)は、インターネットなどにある膨大なデータから特徴をつかみ、予測してデータを生成する。そのため、特徴を把握するための大量かつ品質の良いデータを用意する必要があった。
これに対して生成AIは、少ない条件でもアウトプットを生み出すことができる。生成するテキストや画像のアウトプット品質が従来のAIより大幅に高まったため、人間が行う業務領域まで担うことができる可能性が高まってきている。
生成AIはディープラーニングを駆使して、人間が生み出すようなテキスト、画像、音楽、ビデオなどのデジタルコンテンツを自動的に生成する技術である。大量のデータからパターンを学習し、そこからオリジナルコンテンツを創出できることが特徴である。
生成AIと従来のAI(識別系AI)の違い
種類 | 生成AI | 識別系AI |
定義 | さまざまなデータを学習し、新しいデータや情報を創出するAI | 学習したデータを基に、新たなデータがどのカテゴリに属するかを判別・分類するAI |
特徴 | 文章・画像・動画などの新しい情報やデータを生成し、創造的なタスクを行う | 既存の情報やデータを分析し、カテゴリ分けや判別を行う |
主な機能 | テキスト生成画像生成音楽生成動画生成 | テキスト分類顔認識物体認識 |
応用例 | 記事・コンテンツ制作画像・動画制作楽曲制作ゲーム開発 | 製品の検品、異常個所の検知迷惑メールのフィルタリング顔認証市場予測分析 |
生成AIが注目される理由
生成AIが注目されたきっかけは、2022年に米国OpenAIがChatGPTを発表したことが発端である。生成AIのコンテンツ生成能力の精度は高く、質問に対する回答の精度、出力される文章表現の自然さなど、出力されるアウトプットがビジネスで活用できる水準まで向上した。
更に、生成AIの利用には難解な専門知識も必要ない。ビジネスにおける日常会話で使う話し言葉で利用できる。このように、さまざまなビジネスシーンで活用ができる可能性が高まった。
高い汎用性と多様な業務への適用
従来型AIは、特定業務の特定データをAIが学習するため、AIを活用する担当者は一部の人間だった。ChatGPTのような対話型の生成AIは、誰でも気軽に使うことができ、利用者が大幅に拡大した。汎用性が高かまり、多様な業務に活用できることが従来とは異なる。
自動化の進化
働き方改革や労働生産性の向上の必要性が謳われ、コロナ禍を経てデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進している企業は多い。特に、定型業務の自動化は多くの企業で取組みが進んでいる。
RPAや従来型AIでは、一部の特定業務しか自動化できなかったが、生成AIによって非定型業務や分析や要約など、人間と同様のアウトプットを創造できるようになってきた。
RPAは三段階の自動化レベルがあり、定型業務の自動化であるRPA(Robotic Process Automation)、一部非定型業務の自動化であるEPA(Enhanced Process Automation)、高度な自律化であるCA(Cognitive Automation)の三つである。
顧客体験の進化
生成AIは、バックオフィス業務だけでなく、顧客接点業務への適用も進んでいる。生成AIによる対話を通じて、さまざまな手法で顧客サポートや顧客サービスが提供できるようになった。
従来は人間が対面で接客していたサービスが、生成AIによるオンライン接客による代替ができる可能性がある。各種ツールや情報システムの使い方など、操作性を飛躍的に向上できる。顧客に応じたパーソナライズやコンテンツの最適化に活用できるようになる。
生成AIのメリットとデメリット
生成AI活用のメリットとデメリットを整理する。生成AIはまだ万能であるわけではなく、そのメリットとデメリットを理解して活用することが肝要である。
生成AIのメリット
業務の効率化
生成AIにより、多様な業務を効率化できる。その業務範囲は、定型業務だけではなく、非定型業務も対象となる。例えば、見込顧客へのアプローチにおけるEメール作成では、想定顧客との関係性や提案内容を踏まえ、文案の生成が可能である。
その他、社内会議やミーティングの議事録やその要約など、文字起こしと生成AIを活用することで、圧倒的な効率化ができる。
もちろん生成されたコンテンツをそのまま活用するのではなく、手直しや推敲することで最終アウトプットになるわけである。人間が最初から作業するよりも効率的であり、飛躍的な業務効率化が期待される。
多様なアウトプットや選択肢の生成
生成AIを活用すると、質問に対する複数の回答を得ることができる。また、前提条件も指定することができ、利用者にとってより有効かつ実用的なアウトプットを瞬時に得ることができる。
利用者は、提示された多様なアウトプットや選択肢から最も意図に合致した回答を選び、アウトプットを加工しより自分自身の目的に合ったコンテンツへと作り上げることができる。また、前提条件を見直すことで、生成AIに再検討させることも可能である。
思いつかないクリエイティブの作成
画像やイラストなどのクリエイティブは、人間の創造性が成せるコンテンツと言える。生成AIを活用することで、更に革新的なクリエイティブを生み出すことができる。
前提条件を設定することで、生成範囲をしてしながら、人間の固定概念や思考の癖など、従来のアウトプットや常識を超えたクリエイティブを生成できる。生み出されたクリエイティブを踏まえて、更に推敲し、進化させることも可能である。
生成AIのデメリット
フェイクコンテンツの生成
従来も画像編集ソフトによって偽物画像等が作成されていたが、ディープラーニングの技術の進化により、以前と比べものにならない品質でフェイクコンテンツの作成が可能となった。
生成AIは発展途上の技術であり、テキストや画像の高度処理技術により精巧なコンテンツを生み出すが、情報の真偽を判断する精度は未成熟である。生成AIが偽情報や誤情報を選別できず、誤ったコンテンツを生成してしまう可能性がある。
悪用されるリスク
現存しない新しいコンテンツを生成できるため、あたかも本物のようなコンテンツを生み出すことが可能である。詐欺やなりすまし、偏った情報を生み出したり、権利を侵害したり尊厳を傷つけたりするようなコンテンツを生み出すこともあり得る。
悪用リスクを減らすためには、生成AIの利用者側の倫理観とインテグリティー(誠実性)、リテラシーの向上が必要である。
人間の仕事を奪う可能性
生成AIの活用範囲が拡大することで、将来的に人間の仕事を奪うリスクがある。従来は、定型業務や条件分岐の判断業務はAIに代替されても、創造的な仕事や複合判断が求められる仕事などは人間にしかできないとされてきた。
しかし、膨大なデータ処理や分析業務にとどまらず、全く新しいコンテンツを創造できる生成AIによって、クリエイティブな職種や業務にも影響が及ぶ可能性がある。
生成AIを活用する際の注意点
生成AIは幅広い分野で活用が期待される技術であることは間違いない。生成AIを活用して新しいコンテンツを生成するには、人間が適切な前提条件やパラメーターを設定することが必要となる。
生成AIを活用する上での注意点を整理する。
適切なプロンプト(指示文)
生成AIから意図したアウトプットを得るためには、適切なプロンプト(指示文)を入力することが重要である。生成AIは、人間が与えた前提条件とプロンプトに応じて複数のコンテンツを生成する。
したがって、独創的で革新的なコンテンツを生成するにためには、高精度の適切な情報を入力できるプロンプト作成者が必要である。
昨今、プロンプトエンジニアにも注目が集まっている。プロンプトエンジニアとは、AIへのプロンプト(指示文)を扱うスペシャリストのことで、自然言語処理技術を活用して、プロンプトの設計・開発を行うエンジニアである。
生成AIのみに任せない
生成AIの有効活用には、人間による検証と編集が必要不可欠である。生成AIによって、大量かつスピーディーに新しいコンテンツを生み出すことができるが、生成されたコンテンツの内容が正確かつ適切かを人間が判断し評価する必要がある。
判断と評価にもとづき、偽情報とバイアス、誤情報を取り除き、適切なコンテンツへと編集する業務が必要となる。生成AIに全ての業務を任せ、信用しきってはいけない。
生成AIの最適な活用の検討
生成AIの特長とリスクを十分に理解し、適切な活用を心がけることが重要である。生成AIの活用領域は、大きく3つある。
一つ目は、新しいコンテンツやアウトプットを生み出す業務への適用である。画像や動画制作などのコンテンツ制作が代表的であるが、新製品開発のアイデア創出や顧客の声にもとづく新しいニーズ開発なども想定される。
二つ目は、業務効率化への適用である。前述にもある通り、会議やミーティングの議事録と要約、社内ナレッジやFAQの即時検索と導出、その他にもソフトウェア開発におけるコーディングなど、人間と協働作業を行うことができる。結果、アウトプットを生み出すスピードは改善できる。
三つ目は、フロント業務の自動化への適用である。接客やマーケティングなど、顧客の反応や行動・購買データにもとづき適切な対応をする仕組みを構築することができる。また、仕組みだけでなく、取り組み体制を構築することも重要であり、属人化しないように心がけることが重要である。