コストリーダーシップ戦略とは
コストリーダーシップ戦略とは、競合他社と比べてコストを抑え、市場における価格戦略に幅を持たせることができ、市場価格を下げても収益を確保できる競争戦略である。
競合他社は、市場価格の下落によって収益を得ることが困難になり、収益悪化を理由に市場撤退することになる。結果、より競争優位が確立される。
コスト低減の手法は、規模の経済の追求(生産量を拡大させ固定費を効率化させる)や経験による労働生産性改善や工程の効率化(経験曲線)を追求する、技術開発やノウハウによるコスト削減の追求などの取組みが考えられる。
マイケル・ポーターの3つの基本戦略とは
マイケル・ポーターの3つの基本戦略とは、競合他社に打ち勝ち競争優位を築くための競争優位戦略である。
競争優位戦略の目的は、3つある。
- トップマネジメントが、自社が戦っている経営環境を把握すること
- 将来、現在の経営環境がどう変化するかを推察すること
- 独自性のある強力なポジショニングを獲得できる戦い方を考え実践すること
競争優位戦略には3つの基本戦略があり、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つである。
差別化戦略とは
差別化戦略とは、自社が提供する製品やサービスに、競合他社とは異なる機能やデザイン等で優位性を構築し、高価格で販売する戦略である。差別化が実現できれば、競合他社の低価格戦略による過当競争から脱却することができる。
差別化によってブランド価値が向上し、顧客とのつながりが強くなるため、競合他社が真似することは困難であり、更に競争優位性を確立することができる。代替品に対する対抗力も高い。
差別化の源泉は、ブランドイメージや独自技術、製品性能やデザイン、顧客サービス、販売チャネルなどが挙げられる。独自のビジネスモデルによる差別化など、競合他社との違いと自社の強みを磨き上げる戦略と言える。
集中戦略とは
集中戦略とは、特定の顧客セグメント、販売チャネル、製品やサービスの種類、エリアなどに経営資源を集中させ、特定ターゲットに向けて低コストもしくは差別化、あるいはその両方を実現しようとする戦略である。ニッチ戦略とも呼ばれ、市場が小さすぎるため、大企業が参入しづらく、過当競争にならないメリットがある。
中堅・中小企業の戦略として最も親和性の高い考え方であり、小さい市場で大きな市場占有率を獲得することで、安定的な利益を獲得する方法として採用される。
コストリーダーシップ戦略に必要な5つの要素
コストリーダーシップ戦略を採用するために必要な5つの要素を整理する。
生産規模の大きさ
低コストを実現するためには、生産規模を拡大する必要がある。生産量が増えれば、単位当たりの生産コストは下がり、収益性は向上する。工場や生産設備などの事業全体に関わる固定費を効率的に運営することが可能になる。
経験値の優位性
累積生産量が増えると、一定の比率で単位当たりのコストが低減する。生産規模が拡大することで作業分担が可能になり、分担による業務の専門化や多能工化が進めば、作業効率が向上する。こうした経験値の優位性が確立できる生産性が向上する。
また、経験値の優位性は、生産コストの低減だけでなく、販売等にかかわる間接費も含めて低減することができるため、企業全体にとって利益創出効果が大きい。
技術の優位性
独自技術を活用した優位性の確立によって、新規参入者や代替品による脅威を排除することができる。特に大量生産にかかわる生産技術やオペレーション技術は模倣が困難であり、有効である。
指示系統が分かりやすい組織構造
コスト低減に向けた業務基盤とも言えるが、分かりやすい指示系統は生産現場の効率化において非常に重要である。指示系統が分かりやすいシンプルな組織体制にし、生産現場からのボトムアップが可能な組織設計が必要である。
戦略の社内共有
コストリーダーシップ戦略は、製造部門はもちろん、販売、開発、管理部門の協力とオペレーション構築が必要になる。全社内で共通認識を持つとともに、製造コスト低減のための工夫を考え、生産性向上を推進することが、持続的な競争優位の構築には必要である。
コストリーダーシップ戦略のメリットとデメリット
コストリーダーシップ戦略の本質は、競合他社よりも低コストで製品やサービスが提供できる組織能力を磨くことであり、単なる値下げや価格競争を行うことではない。継続的かつ適切な利益を生み出しながら、売上高を伸ばしていくことが可能となる。
コストリーダーシップ戦略のメリット
コストリーダーシップ戦略による3つのメリットをまとめる。
1. 市場シェアの拡大
競合他社に対してコスト優位性を構築することで、市場から競合他社を排除することができる。結果、市場シェアを拡大することができる。
2. 利益の拡大
コスト優位性の構築によって、市場における価格決定を優位に進めることができる。そのため、市場価格を下げても利益を獲得することができる。競合他社が追随することができず、利益率を低下させることとなり、市場競争を優位に進めることができる。
3. 価格競争力の向上
市場における価格決定を優位に進めることができるため、競合他社よりも低価格で製品を供給することが可能となる。競合他社よりも製品価格を安く提案することができれば、新たな顧客獲得にもつながる。低価格競争に勝つことで、売上拡大と利益率向上を実現することができる。
コストリーダーシップ戦略のデメリット
コストリーダーシップ戦略によるデメリットも3つ整理する。
1. 競争優位確立まで時間がかかる
コスト競争力を確立するまでに、生産規模の拡大と経験蓄積が必要であり、短期間で実現することはできない。大量生産により単位当たり原価を低減させるために、設備投資や効率的なオペレーションを含めた仕組みづくりが必要である。
2. 大きな投資が必要
オペレーション構築までの時間だけでなく、生産規模の拡大に向けた大きな投資と費用が必要となる。経営資源の少ない中小企業では採用が難しい戦略と言える。
また、取り扱っている製品特性によっては、そもそも生産規模拡大が適切な戦略ではないこともあり、コストリーダーシップ戦略の選択には十分注意が必要である。
3. 過当競争が起きる可能性がある
コストリーダーシップ戦略は、コスト競争力を高めることで、低価格の製品投入が可能になる。結果、他社も低価格競争に追随する可能性があり、市場において過当競争が起きる可能性がある。
過度の低価格競争に陥った場合は、当該市場で利益を獲得することが困難になり、市場全体の収益性が低下する恐れがある。
コストリーダーシップ戦略の導入手順
コストリーダーシップ戦略を採用し、導入するための手順を整理する。5つのステップで検討することが必要である。
現状把握と評価
自社の製品に関する製造原価である原材料費、労務費、製造経費の実態を把握するとともに、生産量の推移を評価する。合わせて、競合他社も含めた市場全体の生産量も確認する。
生産数量だけでなく、市場での販売数量と価格の動向も把握し、コストリーダーシップ戦略の採用の可能性を検証する。生産規模の経済が発現する可能性を検証することが必要であり、製品が標準化やモジュール化ができない場合は、そもそもコストリーダーシップ戦略の採用が難しいこともある。
マーケティングの見直し
マーケティングとは、単純なプロモーションの見直しではなく、本質的な市場戦略の見直しを意味する。顧客ニーズの評価を行い、標準化可能な製品仕様の検討を行い、効率的な生産体制の見直しにつなげる必要がある。
自社製品のポジショニングを見直すとともに、価格設計と流通チャネル政策も変更することになる。生産・調達体制の見直しと並行して行い、製版連携による製品供給体制を再構築する。
生産・調達体制の見直し
生産体制には、設計から試作・量産体制の構築までが含まれる。可能な限り標準化し、低コストで生産が可能な仕様と生産工程の確立を目指す。
また、生産工程だけでなく、原材料の調達方法も検討する必要がある。製造原価に占める材料費率にもよるが、低コスト戦略を採用する場合は、調達コストの低減は必須条件である。
オペレーション体制の再構築
製版開の組織体制とオペレーションの再構築を行う。業務プロセスだけでなく、マネジメント体制も構築し、コスト情報だけでなく、生産性指標などがモニタリングできる仕組みを構築することが必要である。
情報システムも有効活用し、効率的なモニタリング体制をつくることが重要である。
継続的な改善
生産量、製造原価(原材料費、労務費、製造経費)を製品ごとに把握し、製品当たりコストと利益の推移を把握する必要がある。また、販売費用やマーケティング費用も含めた総費用の動向も確認する必要がある。
生産数量が拡大する中で、組織体制とオペレーションの増強も必要になる。特に、人材を含めた経営リソースの確保が重要になるため、内外製区分を明確にし、費用対効果の検証をしながらコスト優位性を着実に築いていくことが要諦となる。
コストリーダーシップ戦略の事例
コストリーダーシップ戦略を採用している企業事例を挙げつつ、他の戦略との違いをまとめる。ファーストフード業界を対象に、日本マクドナルド、モスバーガー、日本KFCホールディングスの戦略を比較する。
日本マクドナルドのコストリーダーシップ戦略
同業他社に比べて、低価格で商品を提供しているマクドナルドは、1990年代にEDLP(エブリデイ・ロープライス)を推進し、主力商品のハンバーガーやセット価格の大幅値下げを行った結果、競合他社も追随することで過当競争が起きた。
現在のマクドナルドは、全店舗でメニューの共通化、店舗従業員の教育の徹底、オペレーションの標準化を推進することで、同じ商品を低価格で安定的に供給できる体制と仕組みを構築している。
また、マクドナルドでは独自の物流システムが構築されており、使用される原材料資材は全てマクドナルドが決定したもので、物流システムに従って発注から納品が行われる仕組みとなっている。品質とコストの徹底的な管理体制が構築されている。
モスバーガーの差別化戦略
モスバーガーは、低価格戦略のマクドナルドとは逆の高価格戦略を採用し、高品質で美味しい商品を提供する差別化戦略を推進している。差別化と地域密着を基本戦略とし、「美味しさ」「安全・安心」「多様化」「利便性」「店舗体験価値」「輝く人」の6つを重点領域として設定している。
特徴的な違いは、斬新で多様なニーズに対応したメニューの提案であり、他のファーストフード店ではないプチ贅沢ニーズを満たした商品を提供している。
こうした差別化戦略の結果、高価格で高品質な独自のポジショニングを確立している。
ケンタッキーフライドチキンの集中戦略
ケンタッキーフライドチキンは、マクドナルドとは異なり、フライドチキンという狭い事業ドメインを設定し、集中戦略を採用した。また、揚げないチキンメニューに注力することで、チキン全般に事業ドメインを拡張することに成功した。
揚げないチキンは、女性をターゲットとして、首都圏のお一人様需要、個食需要を獲得し、明確な顧客ニーズを捕捉することで市場創造に成功した。
結果、規模の経済が働く店舗数まで増やし、集中購買によるコスト優位性も確立するコスト集中戦略を実現してきた。チキンという特定領域に対象市場を絞りつつ、コスト優位性を確立する手法である。