経営企画とは
経営企画とは、経営目標やビジョンに基づいて、経営方針、経営戦略、経営計画を策定するとともに、計画実行をマネジメントしていくプロセスと部門を示す。また、ビジョンや将来の戦略方向性の策定に関与することもある。企業の組織全体が一貫した目標に向けて効果的に行動するための仕組みづくりにも関与する。
経営戦略・経営計画の策定
将来成長の方向性やビジョンを踏まえ、経営戦略と経営改革計画を策定する。外部環境分析と内部環境分析からなる事業環境分析を行い、戦う場所と戦い方を検討する。企業の組織全体が一気通貫して行動するためのプロセスを作り上げる。
予算編成と資金計画の策定
年度予算編成と資金計画を行う。予算は、部門やプロジェクトに経営リソースの配分を決定し、目標達成に必要な資金を明確にする。予算に基づき資金計画が具体化される。
業績評価とモニタリング
企画だけでなく、作成した計画や設定した目標・KPI(重要業績管理指標)の進捗状況を定期的に評価し、モニタリングする。目標やKPIの数値的な達成状況の管理はもちろん、目標達成に必要な取り組みやプロジェクトの進捗状況の把握と改善策の指示を行う。
リスク管理
事業環境の変化や目標達成を拒む要因を洗い出し、その影響度を予測し、必要なコントロールを行うリスク管理を行う。具体的には、リスクの特定、評価、対策の検討を行うことになる。
組織全体におけるコミュニケーション
組織内での戦略・計画情報や進捗状況の共有やコミュニケーションを促進する役割を果たす。特に、マネジメント職間での目標や方針の周知徹底、より効果的かつ効率的な計画実行を行うために会議体の設定を行い、組織運営を行う。
経営企画の重要性
経営企画は企業経営の中枢機能であるため、3つの点で重要な役割を担う。
1.方向性の確立
企業が将来に向けてどのような方向に進むべきか検討し、組織全体へ提供する。経営陣が描くビジョンや目標に基づき、共通言語としての経営戦略や経営計画を策定することで、戦略の方向性を明確にする。
2.優先順位づけ
限りある経営リソースをどこへ配分するか、優先順位づけを行う。優先順位をつけられず経営リソースが分散すると、戦略の実行に支障をきたす。優先順位がつけられない原因としては、全体像が把握できておらず、やるべき活動が定義できていないことが挙げられる。効果的な組織運営には、優先順位づけは必須の要件となる。
3.意思統一
組織の成立要件は、共通目的、貢献意欲、コミュニケーションの3つと言われる。経営企画は、共通目的を組織全体へコミュニケーションを行い、目標達成に向けた貢献意欲を向上させ、戦略の実効性を高める必要がある。組織全体で意思統一を醸成するために、経営企画は非常に重要である。
経営企画部の業務と役割
経営企画部の業務と役割を整理する。大企業の場合は経営企画部が配置され、中堅中小企業の場合は経営企画担当が置かれることが多いと想定される。
ビジョンと事業領域の設定
経営陣や社内の主要リーダーと協力してミッション、価値観、長期的な目標を設定するとともに、企業が目指すべき姿を描く。自社の強みと競争優位性を評価し、中長期的な事業領域を特定し選択する。
中期経営計画の策定と進捗管理
ビジョンの実現に向けた3-5年で達成を目指す中期経営計画を策定する。事業環境分析より解決すべき優先課題を定義し、成長戦略を描く。具体的な重点施策と取り組みを行動計画に落とし込み、進捗管理ができるようKPIとモニタリング体制を構築する。
単年度予算の編成と進捗管理
中期経営計画に基づき、より具体的に単年度予算へ落とし込む。具体的には売上予算、原価予算、経費予算、利益予算がある。予算は責任部署が設定され、予算に対する実績を定期的に把握することになる。差異分析を行いながら、目標達成に向けた取り組みを見直しながら推進する。
経営トップ直轄の特命プロジェクト推進
経営者は常に成長機会や改善機会に対するアンテナを張っている。重要性や緊急性が高いと判断されたテーマについて特命プロジェクトを推進することがある。プロジェクト計画を作成するとともに、メンバーを配置し、プロジェクトを立ち上げる。進捗報告の設計も行い、経営者のニーズに合致した報告を行う。
新規事業の立ち上げと推進
既存事業の成長だけでなく、将来の収益源の創造も重要な戦略テーマである。中期経営計画の中に盛り込まれることもあるが、単独テーマとして取り組むこともある。市場探索からアイデア出しを行い、新規事業戦略に則り事業立ち上げを推進する。
海外展開の推進、海外拠点の管理
成長戦略の一環で、海外への事業展開を行うことがある。また、海外拠点を設けている企業の場合は、海外拠点の事業管理を統括して把握する。海外の事業担当と協力して、優先課題の解決に向けた取り組みを、外部の専門家も巻き込みながら推進する。
グループ会社・子会社の管理
グループ関連会社や子会社がある場合、グループ経営を推進する担当を担う。もちろん各子会社には経営陣が存在するが、親会社との相乗効果やグループ共通基盤の構築など、より効率的な連結経営が推進できるよう仕組みづくりを行う。また、経営管理を行い、グループ全体での経営目標達成を推進する。
ICT・デジタルの活用促進
DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、業務の効率化やデジタル変革の実現を目指す。推進体制を立ち上げるために、外部から専門人材を採用したり、協業パートナーを選定したり、広範な業務を担うことが多い。
M&A戦略・提携戦略の推進
成長戦略の一環として、M&Aや提携戦略による非連続な成長を目指すことも多くなってきた。M&Aの業務は専門性が高く、外部専門家とのネットワークや情報収集ルートの構築が必須要件となる。新規事業開発と連動して、中核となる企業の買収など、様々なテーマとの連携によりM&A戦略が推進される。
資本政策・配当政策の見直し・IR推進と強化
金融機関や資本市場からの資金調達を計画的に行う。財務部門との連携を行い、事業計画に基づいたファイナンスを行う。また、投資家や金融機関向けの広報活動も行い、企業価値向上に向けたコミュニケーション戦略の中核を担う。
組織構造の見直し・拠点再編
現状の組織体制や拠点体制の評価と見直しを行う。企業全体・部門横断の判断が必要になるため、俯瞰的な視点での現状評価と施策立案が必要となる。見直し後のオペレーションの担保だけでなく、関連費用がかかるため、各事業部門や人事部門との連携を行い、費用対効果を最大化することが求められる。
取締役会等の会議体の事務局運営
取締役会等の事務局運営など、企業内の機関決定をサポートする。総務部門と連携し、経営陣と協力し、議案やその内容について具体的な内容を詰めることになる。
将来を担う経営人材の育成
人材育成や採用については、通常は人事部門が役割を担う。ただし、将来の経営人材については、重要な経営課題であるため経営企画部門が関与することが多い。経営人材の育成に必要なプログラム開発や候補者のモチベーション向上から実際の評価まで、人事部門と連携して推進する。
コーポレートガバナンスコード対応
上場企業の場合、企業統治に関する東証のガイドラインへの対応も必要である。コーポレートガバナンスコードは基本原則、原則、補充原則の3段階構成になっており、基本原則の遵守が求められる。5つの基本原則とは、株主の権利・平等性の確保、株主以外のステークホルダーとの適切な協働、適切な情報開示と透明性の確保、取締役会等の責務、株主との対話である。
サステナビリティ・環境経営の推進
上場企業の場合は、ESG経営を推進することが求められる。ESG経営とは、持続的で且つ健全な企業価値向上を実現するために、環境的側面と社会的側面に配慮しながら、企業統治を通じて株主を含むステークホルダー価値を高める経営手法であり、ガバナンス強化も含めて取り組みを推進する。
コンプライアンスの推進
コンプライアンスとは法令遵守はもちろん、倫理観・公序良俗などの社会的な規範に従い、公正・公平に業務を行うことである。内部統制を含め、適切な業務遂行を行う仕組みの構築を進める。法務部門がない中堅中小企業においては、経営企画部門や担当者がリードすることが求められる、
監督官庁への対応・補助金の対応
規制産業の場合、監督官庁への対応が求められる。また、補助金を活用する場合は、要件の把握と申請書類の準備など、ルールに基づく対応が必要となる。
経営企画に必要なスキル
経営企画の業務と役割を遂行するためのスキルは、非常に高度かつ多様である。さまざまな経験と場数を踏むことでスキルを研鑽することができる。必要スキルを5つに整理する。
1.戦略思考
戦略思考は、戦略的なマインドセットと戦略思考の2つに分解できる。
戦略的マインドセットとは、ポジティブ思考、成長志向、客観的な視野、ものごとの本質を見極めようとする姿勢が挙げられる。ものごとを前向きに捉え、目指す姿を意識し成長しようと考え、冷静に現状を評価し、課題や原因の本質を見極めようとする考え方が必要である。
戦略思考は、さまざまな思考能力が必要になる。その中でも最も重要な思考は、重点思考(捨てる力)、オプション思考(先読みする力)、構想力である。
限られた経営リソースを分散することなく、投資対効果のある課題や施策に対して重点化する考え方が重要である。総花的な考え方や取り組みは、期待される効果が得られない。捨てる力が必要となる。
オプション思考は、常に複数の選択肢を考え、最適な選択をしながら、バックアップを考える思考方法である。一本足打法ではリスクも大きく、戦略の実行を担保できない。
不確実性が高い事業環境の中で、構造化できない課題や新しい経営テーマが常に浮かび上がる混然一体の状況の中で、冷静な分析、良質な経験、思考力を総動員して最も有効に組み合わせる能力が必要となる。構想力は、今後の経営企画担当にとって非常に重要な基礎能力となる。
2.分析力と洞察力
分析力とは、現状実態を適切に分解し、問題と原因を構造化し、本質的な課題を設定する能力である。企業内部はもちろん、顧客や市場など可視化が難しい領域も同様に分析することが求められる。
また、分析するだけでなく、分析結果から示唆を出す洞察力が求められる。状況を整理するだけでは改善アクションにつながることはないため、分析力と同時に洞察力が必要となる。洞察力を高めるためには、観察、仮説思考、論理的思考、ゼロベース思考、多角的な視点の5つを実践する必要がある。
3.問題解決力
問題解決力は2つの要素がある。問題を認識できる能力と問題を適切に解決できる能力である。
問題を発見し、適切に認識できない限り解決はできない。問題とは目指す姿と現状実態のギャップであり、現状実態を正確に把握し、目指す姿とのギャップを生んでいる原因を特定する必要がある。
問題を適切に解決できる能力で重要な要件が、再現性である。どんな問題も解決できないといけないため、再現性が求められる。その再現性を確保するために基本手順の習得が必要となる。MECEに解決策を体系化し、費用対効果の評価に基づき重点化が必要となる。
4.コミュニケーション力
戦略立案プロセス、戦略実行プロセスの両方において経営陣や社内の主要な関係者を巻き込んでいくことが重要である。そのためにコミュニケーション力が必要不可欠であり、情報を適切に伝える力だけでなく、動機づける力、行動変容を促す力が必要となる。
5.リーダーシップ
経営者がリーダーシップを発揮することは当然であるが、経営企画部門や担当者もリーダーシップが求められる。リーダーシップに必要不可欠な3要素を整理する。
一つ目の要素は目標設定であり、適切なゴール設定を行いメンバーと共有することである。目標達成に向けて役割を割り当てることも重要である。二つ目の要素は率先垂範であり、指示を出すだけでなく自ら行動を起こすことが求められる。三つ目の要素は相互支援であり、協働しあえる環境を整えることである。
経営企画に向いている人材
経営企画の業務は多岐にわたり、且つ他部門との協働が欠かせない。こうした業務特性を踏まえ、経営企画に向いている人材の要件を整理する。
知的好奇心が旺盛な人
経営企画は、財務や経理の知識だけでなく、マーケティング、新規事業、最新のテクノロジーや顧客行動の変化、組織や人材開発など多様なテーマが関連する。そのため、常に最先端の情報にアンテナを張り、知識と経験を吸収する意欲がある人材は非常に向いている。
考えることが好きな人
一部門や一機能に特化した業務を担うわけではなく、幅広いテーマや業務の課題を考えることになる。得意領域に特化して業務をしたい人には向かない。逆に、幅広い領域で、さまざまな考え方を学び、自らも思考し、問題解決に取り組むことが好きな人は非常に親和性が高い。
協働やチームプレーが好きな人
多く部門との協働が求められる経営企画部門は、チームプレーが必須要件である。異なる価値観や考え方の人と協働することが楽しく、やりがいを持てる人は経営企画に向いている。チームプレーで成果を出すことに共感できる人は、プロジェクトワークなどさまざまなシーンで活躍できる。
行動力のある人
企画業務は、分析をしてレポートを作成し、意思決定をサポートするというイメージが強い。もちろん分析やプレゼンテーションなども重要な業務であるが、企画を通して初めて価値が生まれる。そのために、素早く行動を起こすことが必要になる。頭でっかちで実践が伴わない人は経営企画には向かない。