クールノー競争とは
クールノー競争は、ゲーム理論の概念が登場する前から存在した戦略モデルである。フランスの経済学者アントワーヌ・クールノーが提唱したモデルで、寡占状態での企業間の生産量調整をモデル化した理論である。
A社とB社の寡占市場では、A社は全需要とB社の生産量を予測して、利益を最大化するために生産を行う。仮にB社が増産する場合、総供給量が増加するため市場価格は下落する。その状況においてA社が生産量を維持した場合、B社に需要を奪われ収入が減少する一方で費用は一定であるため、利益が減少することになる。
逆に、A社が減算した場合、総供給量が減少するため市場価格は上昇し、同時に費用も減少するため、利益は増加する。クールノー競争においては、このような戦略的代替性が成立するメカニズムが存在する。
クールノー競争では、他社の生産量を一定としているため、製品の市場価格が市場に供給される生産量に左右され、寡占市場では生産量の調整による価格調整が自社の利益最大化の打ち手となる。
一方で、他社も同様に考え行動をとるため、両社の調整が繰り返され、生産量と価格が均衡に近づくことになる。まさに、ゲーム理論のナッシュ均衡と一致しており、クールノー・ナッシュ均衡と呼ばれる。
こうした現象は、コモディティ化した製品を大量に提供している産業(石油、ガス、電気、鉄鋼など)や、機能の差別化が難しい大量供給されるような産業(ディスクリート半導体など)で起きることがある。
ベルトラン競争とは
クールノー競争は、価格は生産量によって決定されるモデルである(生産量競争)。一方で、フランスの数学者ベルトランは、生産量は価格によって決定されるとし、ベルトラン競争を提唱した。市場競争においては、生産量よりも価格が重要であると主張した(価格競争)。
ベルトラン競争では、他社は価格を変えないと信じて、自社の利益最大化を狙い価格を決定する。最も低価格の企業が需要を独占することになる。但し、実際は他社も価格を引下げて対抗するため、企業は固定費を賄うことができなくなる。ベルトラン競争下では、価格は限界費用と一致することになる。
両社の価格が同じ場合、両社は利益ゼロになる水準まで価格を下げることを意味し、全需要を半分ずつ獲得することになる。ベルトラン競争における価格競争の結果、企業の利益がゼロになる水準で均衡するという考え方は、完全競争市場と同じ考え方となる。
寡占市場を前提に分析したにもかかわらず、完全競争市場と同じ結果にたどり着いたことを「ベルトラン・パラドクス(ベルトランの逆説)」と呼ばれる。このパラドクスを解消するためには、製品の差別化が必要になる。価格競争では限界があるため、製品差別化を図ることで、利益最大化を目指した価格設定を調整する。
このように、ベルトラン競争では、相手と同じ価格戦略を選択することが最適反応となり、クールノー競争とは逆に、戦略的補完性が成立する。
こうした現象は、数量よりも価格調整がしやすい市場特性のある航空会社、通信キャリア、コーラ飲料などの市場で起きることがある。各市場の寡占企業は、過当競争に陥らないよう差別化を強化することで、利益拡大を図ろうとする。
ナッシュ均衡とは
ナッシュ均衡とは、ノーベル経済学者ジョン・ナッシュが定式化した非協力ゲーム(ゲーム理論)の基本概念で、全てのプレーヤーが、一定のルールのもと、他者の利得は考えず、自らの利得が最大となる最適な戦略を選択した結果、全てのプレーヤーの利得が均衡している状態のこと。
今回は、3者におけるナッシュ均衡の考え方を整理する。ゲーム理論【入門編】で紹介している「囚人のジレンマ」では、2者におけるナッシュ均衡の解説があるので、是非参考にして欲しい。
2者におけるナッシュ均衡同様に、3者においても、各プレーヤーが自身の利得最大化のために最適な戦略を選択し続ける。具体的には以下の通りとなる。
プレーヤーAの最適反応戦略を考える
- プレーヤーBとCにおける全ての戦略の組み合わせを列挙する
- それぞれに対してプレーヤーAの最適反応戦略(利得最大化戦略)を求める
- その利得をハイライトする
プレーヤーBの最適反応戦略を考える
- プレーヤーAとCにおける全ての戦略の組み合わせを列挙する
- それぞれに対してプレーヤーBの最適反応戦略(利得最大化戦略)を求める
- その利得をハイライトする
プレーヤーCの最適反応戦略を考える
- プレーヤーAとBにおける全ての戦略の組み合わせを列挙する
- それぞれに対してプレーヤーCの最適反応戦略(利得最大化戦略)を求める
- その利得をハイライトする
全てのプレーヤーの利得にハイライトされている戦略の組み合わせがナッシュ均衡となる。各プレーヤーが最適反応戦略を選択した結果、3者の利得が均衡している状態となっている。2者の利得表の場合は複占市場を想定しており、3者の利得表は寡占市場での各企業の行動と理解すると分かりやすい。
現実のビジネスにおいては、自社が競合他社との競争の中で、製品価格の値下げや新店舗出店を行うなどの場合、ナッシュ均衡を含むゲーム理論の考え方を活用することができる。
価格戦略であれば、自社が値下げをする場合としない場合、競合他社が値下げをした場合としなかった場合を想定し、想定される売上高や獲得利益の変化をもとに戦略の選択肢を考えることができる。
店舗戦略であれば、自社が新店舗を出店する際に、競合他社も同じように出店を考えていると仮定し、エリアAとエリアBのどちらに出店すればいいかを、出店後の売上高と獲得利益の予測をもとに戦略の選択肢を検討することができる。